Nikon Beetle 1600S Slope Reduction

ニコン精密光波測距装置 Beetle 1600S

原色は黄色のボデイカラー

カメラやレンズのたぐいではないが、こういう話も聞いてほしい。 ネットを検索しても、まず出てこないのがこのアイテムだ。 ニコンファンでも、あまり個人所有している方は少ないのではないか。 一家に1台というわけにはいかない。 ニコンの製品には珍しく、ボデイカラーは原色の黄色。 ブルーのストライプにロゴが入る。これは何か。

ニコンBeetle 1600Sの操作パネル

測距精度はプラスマイナス1センチ

ニコン製の測量機械である。 光で距離を測定する光波測距装置というものだ。ふつうはセオドライトに乗せて使う。 このクラスだと測距精度がプラスマイナス1センチである。 これはどういうことかというと、 例えば東京タワーの高さを1センチの誤差で測ることが可能だ。 機械の測距表示もメートルではなくミリである。

ニコン精密光波測距装置 Beetleシリーズは、全部で6種類ある。 Beetle 500、500S、1000、1000S、1600、1600Sの6種類だ。 測距範囲が500メートル、1000メートル、1600メートルで3種類に分かれる。 Sが付いたモデルは、測定した斜距離を水平距離比高差に換算する機構が付いたものだ。 スロープリダクション( Slope Reduction )という機構だ。

Beetle 1600S

ニコンファンがコレクションするならば、最上位機種のBeetle 1600Sがおすすめだ。 1979年12月の価格表によると、最上位機種のBeetle 1600Sは定価で1,900,000円だった。 タイプミスではなく、百九十万円である。 当時のニコン最高級一眼レフカメラであるニコンF2が10万円代で購入できた時代だ。 個人で所有する人は少なかったのではないか。 時代は経過し、中古プライスで購入できるようになったのはありがたい。

写真に写っているのは、デッドストックで出たBeetle 1600Sだ。 専用の黒色ハード格納箱とみかん色のキャップがついている。 装置背面には4つのトグルスイッチとボリュームつまみが2コ、 アナログ針のメーターが2つ。12コの設定用スイッチと液晶の表示部がぎっしり並ぶ。

ほとんど実機を見る機会のないニコン製品である。 装置を各方向から撮影した図鑑的な画像を掲載するので確認していただきたい。

正面向かって右の側面

正面向かって左の側面

持ち運び用ハンドルのある装置のトップ

セオドライト搭載用金具のある装置の底部

テネシー製のニコンブランド

トップには持ち運び用のハンドルが付く。底は装置取り付け用の頑丈な金具とクランプがある。 外装は鉄板製で縮緬塗装のようなザラつきのあるやまぶきの黄色だ。 重量2.5Kgであるが筐体が大きいので見た目より軽くかんじる。 装置の正面には大きな目玉が1つ。 目玉の奥には、マイクロ波の実験で使う導波管のような白金色の素材の円筒状の金属部品が入っている。

装置にはニコンのロゴ、ケースにもニコンのロゴが入っているが、製造しているのは米国のメーカーだ。
PRECISION INTERNATIONAL INC. TULLAHOMA, TENNESSEE U.S.A.
と書いてある金属プレートが装置正面の丸い目玉の下に貼ってある。

数少ない情報から確認できたのであるが、米国製オリジナルのBeetle 1000Sはボディカラーは同じく黄色であるが、 操作パネルと側面の帯の色が青ではなく赤である。 ニコンブランドは青、米国製オリジナルは赤と色使いを分けているのか、 確定するために必要な信頼できるエビデンスが揃っていない。 そもそもニコンが発行した白黒印刷の日本語版カタログしか一次資料がないために、 装置のランク(例えば1600Sと1000Sの違い)によって、 あるいはブランド(ニコンブランドか米国のオリジナルブランドか)によって色使いを変えたのかは分からない。

丸い目玉が印象的な装置の正面

製造番号が刻印されたプレート

スイッチ類が並んだ装置の背面

用のない用の美

「こんなもの買ってどうするの」
これは正しい反応である。

でもこの言葉が聞きたくて、マニヤはニコン精密光波測距装置を探している。 なんにも使えない。 用のない用の美がここにはある。 役に立たない存在する意味がないものがいとおしい。 取扱い説明書(使用説明書)は、株式会社ニコンからコピー版を送っていただいた。 こういう対応には、マニヤは感激してしまう。1998年6月のことだ。

考古学者は遺跡で散歩

近年では、誰からも相手にされなくなったニコン精密光波測距装置ではあるが、 落ち葉は晩秋の陽だまりに、一人光波を発信して気をはいている姿は美しい。 機械でも場を与えてあげれば輝く。 米国はテネシー産ではあるがニコンを冠した時代の装置である。

落ち葉の中でニコンBeetle 1600S

夕陽を見つめるニコンBeetle 1600S
(2枚とも撮影年は2001年11月)

黄色のような原色の機械というのは、本当にプロ用マシンという気配がある。 尤も、これはホントの業務用だ。 建設現場というよりも、考古学者が遺跡の発掘現場で使うのが似合う。 ニコン精密光波測距装置コレクターには、外すことのできない1台となっている。 気配もたいせつな要素だ。

みかん色に陽が沈みかけるころ。 ニコン精密光波測距装置を持って散歩もいいものだ。 落ち葉にも考えはある。

コレクターズノート

1970年代の時代の液晶品質なのか、経年ですでに液晶表示部は機能していない。 測量機コレクターの主なコレクターズアイテムは、 屈折式望遠鏡が搭載されたセオドライトだと思う。 見た目も機械様式美にあふれ、木箱に収納されている小物工具などと共に、 実用というよりもインテリア的な使い方をされている方が多い。

光波測定器を集めている方はごく少数派と思える。 とくにニコンの精密光波測距装置Beetle 1600Sは、 市場にもあまり出て来ないようなので探し甲斐があるかもしれない。

持ち運び用黒革ケースとニコンBeetle 1600S

黄色にブルーのニコンカラーが目に鮮やか

2020年のあとがき

このコンテンツのオリジナルは2001年11月に書いたものです。 2016年のサイト移転に伴う見直しにあたり文章を再確認しました。 高い建造物の例えとして今では東京スカイツリーとか書くところでしょうが、 2001年当時はまだ東京タワーが現役の高さ日本第1位の建造物でした。 ここは当時のまま東京タワーを例えとしたまま残しました。 画像は当時のオリジナル2枚のみでしたが新たに撮影した画像を大幅に追加しました。

本コンテンツを公開してから20年近く経過しましたが、 インターネットのウェブの画像を検索してみた限り、 本サイトを除き、2020年現在どこにもこのニコンBeetle 1600Sの情報がありません。 図鑑的な狙いで各方向から撮影したブツ撮り画像を掲載しています。 画像をクリックすれば大き目のサイズの画像を表示するように直しました。 そのうち、どこかで、誰かが、なにかの役に立つことでしょう。

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