Nikon Wooden Film Holder

日本光学製木製ガラス乾板ホルダー

すでに絶滅の技術

日本光学(ニコン)の製品である木製のガラス乾板ホルダーだ。
日本光学製ということでは、これはかなり珍しい。 レッドものというよりも、日本光学製木製ガラス乾板ホルダーはすでに絶滅してしまった。 絶滅して、もう製造されることのない木製ガラス乾板ホルダーではあるが、 現物がここに保存されている。
これは、ある国立大学の医学部の先生から、1990年代に動体保存依頼を受けたものである。
ひらたく言えば、もらったものだ。

珍しい日本光学製の乾板ホルダー (撮影年は2001年11月)

木工にうるさい日本光学

写真は、下に木製の収納箱が写っている。
用途限定のための平べったく薄い木箱である。 ムクの一枚板を組み上げ、ニス塗りで頑丈にできている。 内部は白いフェルト布が貼られていて、 木製の乾板ホルダー2枚と、乾板を取り付ける鋳鉄製の丸い枠を収納する。
Nippon Kogaku Tokyoの光学マークが彫刻されている小さい金属プレートが釘で止めてある。
これはお約束だ。

鋳鉄製枠と木工技術の融和

丸い黒塗装された鋳鉄製枠には、スリガラスと木製の枠が精密に工作されている。
とくにこの鋳鉄製の枠は、重量が重くならないように鋳物でありながら薄手に作られており、 見る人が見れば評価のポイントは高い。 乾板ホルダーは留め金が真鍮製でみがき上げ加工してあり、 透明なラッカーが塗られている。
1から4までの数字が1枚の乾板ホルダーそれぞれに表示されているが、 なんと螺鈿(らでん)加工なのだ。 そこまでていねいに、美術品のように仕上げなくても、 と思うがその生真面目さには感服してしまう。

ガラス乾板写真機

さて、このガラス乾板を搭載した写真機はどんなものか。
医学部出土のため、顕微鏡写真装置の乾板と思われるが、 正確な資料がないため不明である。 このサイトをご覧の方で、このあたりをご存知な方はご教授願いたい。(注)
ニコンの珍しい木製写真乾板ホルダーということで紹介した。 毎日使っているわけではない。
木工製品は日本光学にかぎる。

(注)
その後に使用目的と使い方が判明した。後半のコンテンツで説明します。

薄木と真鍮板と革と貝殻で作られた美術品

この木製のガラス乾板ホルダーは、日本光学の製品ではあるが、 日本光学とかニコンの表示や刻印は入っていない。 おそらく、 木製の大判写真機を製造する技術を持つ写真機メーカーや写真材料メーカーが製作したものと推測する。 ハセミ写真機を製造していた長谷川製作所のような優れた木工写真機メーカーが、 かつて日本にもあったのだ。

ガラス乾板のサイズは、事務用のスケールで測ると12センチ×16.5センチ。 英国が誇るトロピカルカメラなどで百年以上前から使われていた伝統あるサイズフォーマットだ。

ガラス乾板のサイズは実測で12センチ×16.5センチ

その後のこと

2001年に本コンテンツの最初の版を公開した時点では、 この木製乾板ホルダーがなにものか、用途が分からなかった。
しかしその後、気を付けて見ると、 いくつかのシーンでこの木製乾板ホルダーを見る機会が出てきた。 以下の画像はニコン研究会で、 木製乾板ホルダーのコレクションをいくつか集めて検証した時の様子だ。 撮影年は2011年8月である。

木製乾板ホルダーコレクション

さらに以下の画像は、ニコン研究会が、東京は三鷹の国立天文台を訪問した時の様子だ。
ガラス乾板を用いるカメラを見せていただいた。
天文台の解説によると、 日本最大の65センチ屈折赤道儀望遠鏡の長焦点を生かした天体の位置測定用の撮像カメラとのこと。 写真乾板が用いられていたが現在では写真乾板は製造されていない。と説明されている。 木製乾板ホルダーは日本光学製のそれとほぼ同じように見える。 撮影年はいずれも2011年10月である。

国立天文台の巨大な65センチ屈折赤道儀望遠鏡

天体の位置測定用の撮像カメラ

国立天文台の木製乾板ホルダー

やっと用途が判明

書いてもたった1行にも満たない話ではあるが、木製乾板ホルダーの用途がやっとわかった。
ニコン万能投影機用の撮影装置である。
古い1960年代のニコン万能投影機のカタログを見ていて、 専用アクセサリーのところに写真入りで出ていて判明した。 投影機の丸いすりガラスのスクリーンと交換して、投影面枠にピタリとはめ込み、 投影像を撮影する写真装置である。

その後、実際に木製乾板ホルダーをニコン万能投影機に取り付けている状況の写真を、 東京工業大学工学部の研究者の方から提供いただいたので以下に示す。

ニコン万能投影機にセットされた写真装置

中枠を跳ね上げて木製乾板ホルダーを挿入したところ

遮光板を引き抜き撮影準備完了

本撮影装置は、近年まで現役のだったようで、 2002年にニコンインステックから送っていただいた「万能投影機総合カタログ」に、 万能投影機写真撮影システムとして掲載されていた。
さすがに木製乾板ホルダーではなく、金属製の4×5インチ判のフィルムバックとなっている。

なお2016年現在の話であるが、ニコンインステックのサイトを見た限りでは、 万能投影機は2機種(V-12BとV-20B)のみが製品ラインナップにあり、 専用アクセサリーには写真撮影システムは掲載されていない。

ニコン万能投影機の黄金時代

日本の機械工業の最盛期にあった1960年代。 ニコン万能投影機も大規模な需要があったのだろう。 昭和42年(1967年)に刊行された日本光学工業の社史「50年の歩み」には、 ニコン万能投影機の黄金時代が記されている。
1960年代の中・小型のラインナップ。 むかしは画面がシカクい投影機があったのだ。
特に大型なスクリーンを持つH-40型万能投影機のその巨大な姿には驚く。 投影面の有効径は1016ミリだという。

1960年代はニコン万能投影機花の黄金時代
日本光学工業「50年の歩み」から画像転載

弩級のH-40型万能投影機
日本光学工業「50年の歩み」から画像転載

2016年の追記

このコンテンツのオリジナルは2001年11月に書いたものです。
2016年の見直しにあたり、 その後にわかったことを時系列に書いてみました。 新たに画像も追加しました。

東京工業大学工学部の研究者の方から、 木製乾板ホルダーをニコン万能投影機に取り付けている状況を再現し、 その様子を撮影した写真を提供していただきました。
木製乾板ホルダーの使い方が理解できます。 ウェブ上では世界初公開の画像です。 大げさなようですが、事実です。 メーカーであるニコンから、社史やカタログ等の資料で掲載されていない画像ですので、 価値あるものと思います。

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