Repro Nikkor 170mm F1.4 Platinum Silver

Repro Nikkor 170mm F1.4 Platinum Silver, Nippon Kogaku Japan Collector's Dream

Full Energy Platinum Silver Strong Philosophy
Repro Nikkor 170mm F1.4 Super High Speed Lens
Yes, F1.4 Nippon Kogaku Repro Nikkor 170mm F1.4 M=1

アルパ研究会

東京・月島。
リバーシテイの高層住宅がそびえる夏風は隅田川。
ひさしぶりのアルパ研究会への参加である。
私のレッドブックニッコールエイドに賛同してくださった 唯一最初のプロフェッショナル写真家が田中長徳氏だ。
「銀色のレンズを捕獲したので見に来ませんか」と、ありがたいメールをいただいた。
文化財級のレンズである。
とにかく拝みにいくのがすべてだ。

ベトナムウオッカ

アルパ研究会は、ご存知チョートクさんこと田中長徳氏が主宰されている会である。
ウェブ上でもいくつかのエピソードが展開されているが、 最初の会合が立ち上がった直後によく通っていた。
いまはレチナハウスのオーナー社長をしている望月良二氏との出会いもこの会合であった。
彼が南青山にまだお店を開く前の話だ。
時代の話は、また別な紙面で書いてみたい。とにかく、ひさしぶりの会合であった。

アルパ研究会の田中長徳氏 (撮影年2002年7月)

チョートクさんの前にリプロニッコールがゴロリ

チョートクさんは、ベトナムの取材から帰ったばかりで、 週末を日本で過ごして今度はヨーロッパ方面で業務とのことであった。
おみやげは、少々あやしい香りのするベトナム産ウオッカのビンがテーブルに置かれている。 ラベルには、なんと読むか分からないがNep Moiとロゴが入っている。 ベトナムの夕立の味だ。
たのしいサイゴン都市事情についてお話があり、メンバーの近況報告が続いた。
買出し部隊がスーパーの紙袋を下げて戻ってくると、冷たいビールやワインが並び、 おつまみをパクつきながらカメラ談義が続いた。
ビールをこぼしてはいけない。テーブルに無造作に置かれた会員の世界の銘機はバッグに収まり、 1本のプラチナシルバーのレンズがあたりを圧倒した。

プラチナシルバーのレンズの迫力

重量級プラチナシルバー

リプロニッコール170mm F1.4だ。
私はこの世界にかかわるようになって、いくつかの文献や資料で、その存在は知っていた。
しかし、実物がこの世に存在しているとは思わなかった。
何回も書いていることだが、こういった産業用レンズ、工業用レンズは、 その搭載された巨大な装置とともに破壊され廃棄されてしまう運命にあったのだ。
とくに大きい長焦点レンズほど数が少ない。絶滅危惧種の1本なのだ。

ベトナムウォッカとリプロニッコール

アルパ研究会では、会員の方が珍しそうにレンズに目を向けている。
細かい紹介は抜きにして、まず持っていただいた。
茶革のケースからレンズを指先でつまんで取り出そうとすると、 だれもが、「あれ?重たい!」と声をあげる。
見た目は美しい銀色なので、それほど重たいようにはみえないが、重量は約2.3Kgである。
しかもレンズは素通しのような透明だ。
写真家の田村彰英氏もレンズを両手で持ち上げて、前玉をのぞいている。

リプロニッコール170mm F1.4がゴロリ

1967年。昭和42年のことだ。
日本光学は、2種類のリプロニッコールを世に出した。
弟は光速レンズと言われたリプロニッコール85mm F1.0だ。
そして兄にあたるのが、プラチナシルバーのリプロニッコール170mm F1.4である。
アルパ研究会ではチョートクさんからレンズを見せていただき、 デジタルカメラで画像を撮らせてもらうつもりであった。
しかし、特別に貸し出していただくこととなり、赤ん坊を抱くように抱えて帰ってきた。

お借りしたレンズと大江戸線月島駅

もう造れない巨大レンズ

このリプロニッコール170mm F1.4はヨーロッパ方面で活躍し、 数奇なルートをめぐり日本に帰り着いたのだった。
その道では知られた業者の方が直接チョートクさんに交渉をもちかけ、 コレクションの一部に収まったのだという。 とても私では手が出せない高額なレンズであるが、どちらにせよ、 日本に戻すことができてよかった。
日本が、日本のみが生産しうる世界の文化財なのだから、 日本にあることが重要なのだ。
平成のグローバルスタンダード、効率が優先する時代では、 もうこんなばかげたハイパースペックの巨大レンズは造らないだろう。
いや、造れないだろう。

ハイパースペック

リプロニッコール170mm F1.4の性能緒言をまとめてみる。
レンズ構成図を見ると、対称型のとてもゴージャスなガラスブロックだ。
リプロニッコール170mm F1.4の、尊敬をこめて、バケモノのような性能をみてみよう。

−焦点距離: 169mm
−絞り: 開放F1.4 最小絞りF8 1/3づつのステップ
−レンズ構成: 6群10枚
−基準倍率: 1 X
−画角: 7.3度 (1X), 7.7度 (0.9X)
−色収差補正波長域: 400nm〜650nm
−歪曲収差: 0.0000000000000%
−画像サイズ: 24mm×36mm (43.2mmφ)
−基準倍率における原稿から画像までの距離: 407mm
−重量: 2,320g

歪曲収差は驚愕の0.0000000000000%だ。
フィルター径は72mmピッチ0.75mmで鮮鋭なネジが切られている。
つまり普通のニコンカメラ用72mmフィルターがセットできる。
キャップはアルミ製で、NIKKORの刻印はラッカー流し込みで鮮やかなものだ。

リプロニッコール170mm F1.4のレンズ構成図

リプロニッコール170mm F1.4のレンズ構成図を示す。
日本光学工業株式会社が発行した正式な技術資料から転載させていただいた。
クリックするとすこし大き目の図面が出るので贅沢なレンズ構成を再確認したい。
6群10枚の完全対称型が歪曲収差0%を実現する。
重量が2キロを超えるレンズであるが、ほとんどガラスの塊みたいなレンズなのである。
構成図を見てその重量に納得した。

レンズ構成図各部寸法入り

なお、図面の寸法を見ると、アタッチメントサイズ、 つまりフィルター径が72mmでピッチが0.5mmとなっている。 しかしながら、現物はピッチが0.75mmである。
オートニッコール時代の72mmフィルターはピッチが0.75mmであるが、 これが非常にスムーズに装着できるからだ。 72mmのメタルキャップも同じくスムーズに装着できる。
そもそも、リプロニッコール170mm F1.4のフロントキャップは、 カメラ部門の72mmキャップそのものである。
最初の設計は図面の寸法とおり0.5mmだったのだろう。 でも、それだとキャップを専用設計し新たに作らねばならない。
たかだか2桁かせいぜい100本程度しか製造されなかった希少レンズである。 ピッチを0.5mmにしないといけない理由もない。 ならばカメラ部門の汎用のキャップを使わせてもらおう。 ということで、急きょ設計変更し、 フィルター径をピッチ0.75mmで製造したのではないかと推測する。
製造から50年が経過して、 今さら古い図面を引っ張りだされて比べてどうのというのもどうかと思うが、 そんな図面と現物の違いの背景にある小さな細かい話をするのは、 ディープなレンズ談義の作法だったりするから始末がわるい。 大目にみてほしいところだ。

武士の誇り

テクニカルデータには出てこないところだが、
鏡胴は熟練の旋盤技術者によるフルスクラッチ超精密仕上げ。 さらにプラチナシルバーのめっきの丁寧さ、 絞り羽根の仕上がり、 カチリと動く絞りリングとマウントの工作精度。
一般家庭用レンズにはない、 ハイエンドな要求仕様追求のために存在した、ためいきは究極の美しさだ。 径73mmピッチ0.75mmのネジマウントでカメラに装着できる。

当時のセールスマニュアルを見てみると、
「リプロニッコールは、大口径比、高解像力の等倍撮影およびリレー専用のレンズです。 原画から画像までの距離により、 85mm F1.0および170mm F1.4の2種のレンズが用意されています」
と説明がある。
また、 「等倍撮影においては他のいかなるレンズの追従も許さない極めて優れた性能を示します」 と大胆に言い切ってしまう心意気がうれしい。
世界中のレンズ、原子レベルの存在を確かめられるレンズさえも、 このリプロニッコールの足元にも及ばないのである。
1968年6月の資料からの記述であるが、 日本人はこういった武士の誇りを忘れてしまったのではないか。

兄弟レンズの170mm F1.4と85mm F1.0が再会した

レンズは冷たい水の音

よいレンズはなめらかで、そして冷たい。
よく冷えたレンズを冥王星の軌道に向き合って置いてみる。
リプロニッコール170mm F1.4のレンズはガラスブロックのような、透明な水が写る。
木々を交差する光の波動は、プラチナシルバーの頑強な鏡胴に反射し、 神々しいまでに冷紫色のコーテングが至福の午後の光線に込めた記号を解析した。

レンズはただのガラスと思っている人もいる。
そう思うのは自由であるし、また、レンズは水と思うのも自由だ。
水のような清清としたレンズもそうあるものではないが、 リプロニッコール170mm F1.4の前玉に耳をあてると、 どう考えても水の流れにしかおもえない音がきこえる。
理屈ではありえない話だが、ありえない話を聞いても、気分がよければそれでよしだ。

下の画像がリプロニッコール170mm F1.4の前玉である。
水の音が聞こえるようにかんじるのであれば、それはそれで幸福なことだ。
音が聞こえないのであれば、そこはそれ、 これから聞こえるかもしれない楽しみがあるではないですか。

Special Thanks Mr. Cyotoku Tanaka

流れる水の音がレンズから聞こえてくる

2016年の追記

ここまでのコンテンツは2002年7月当時のものです。
ベトナムウオッカのことは当時の日本では知られておらず、 ネット通販で簡単に手に入る今の時代からすると、 ベトナムの珍しいお酒があるとの風景でした。
2016年の見直しにあたり、レンズをお借りした背景など、 アルパ研究会の様子を当時の画像を再編集して盛り込みました。
実は、レンズをお借りした、その後があるのです。以下に後日談としてお話したいと思います。

驚愕の後日談

2016年の見直しにあたりすこしお話しましょう。
このコンテンツを公開してから14年が経ちました。もうお話してもよい頃でしょう。

2002年7月にアルパ研究会の場で田中長徳氏からリプロニッコール170mm F1.4をお借りしました。 すでに持っているリプロニッコール85mm F1.0との兄弟再会を実現し、 日本の夏をレンズとともに過ごしました。
2か月後の2002年9月。アルパ研究会に参加し、 田中長徳氏へお借りしたリプロニッコール170mm F1.4をお返ししました。 きちんとお返ししたのです。

アルパ研究会の前半は、チョートクさんから最新のカメラ事情をお聞きし、 その後は、会員の近況(こんなの買いましたとか)から ジャンケン大会(格安物件の争奪戦)が続きます。
会の後半は、なにか冷たいものでも飲みながら、フランクなカメラ談義の場となります。
会員からの差し入れか泡盛を飲んで、すでにチョートクさんは出来上がっています。

「じゃ、あきやん、これ」
と、チョートクさんはお返ししたばかりのリプロニッコール170mm F1.4を私に差し出す。
「は?」と私。
「永久貸与ということで!」
え、え、永久?!そのまま言葉を理解すると、それはまずいでしょう。
結局、チョートクさんが購入された金額を上回る額で、譲っていただくことにしました。

帰りの大江戸線は月島で乗り、 バッグから譲っていただいたばかりのリプロニッコール170mm F1.4を取り出し、 座席に座ってもらいました。

チョートクさんからお譲りいただいたレンズと座る大江戸線

コレクションと過ごす

田中長徳氏からお譲りいただいた貴重なリプロニッコール170mm F1.4は、 私の第一級のコレクションとしてだいじに保護しています。
コレクションと過ごす日々。夏の終りの木漏れ日の下。銀色の鏡胴が輝いています。

夏の終りに輝くリプロニッコール170mm F1.4

テーブルの上にはゴロリとリプロニッコール170mm F1.4が重たく鎮座しています。
フロントの前キャップはアルミ製です。 72mm径ですから一眼レフカメラ用のニッコールレンズのキャップと共用していると思われます。 リアの後キャップは縫込みのある革製。 工業製品の最右翼のリプロニッコール170mm F1.4に革製のキャップというところがなごみます。 もっともレンズケースもチョコレート色の革製です。
クロームボディのニコンFに銀色に輝くリプロニッコール170mm F1.4はよく似合います。

前キャップはアルミ製そして後キャップはなんと革製

ニコンFと遊んでいるリプロニッコール170mm F1.4

クロームのニコンFによく似合うリプロニッコール170mm F1.4

さらに後日談

リプロニッコール170mm F1.4にかんするページの大幅アップデートにあたり、 写真家・田中長徳氏のお姿画像の追加掲載や、その後の顛末について言及しましたので、 事前にご本人にご承諾をいただきました。
すると、ウェブ公開と同時に、田中長徳氏のfacebookで紹介くださいました。
チョートクさんありがとうございました。

田中長徳氏のfacebookで紹介

14年も前の昔の話を書き直すのもなんですが、 ストック型のウェブは資料格納庫の性質を持つので2016年秋に見直しと改訂を行いました。
さらに公開後に、レンズ構成図を追加しました。 図面の寸法と現物との違い(フィルター径72mmピッチ0.75mm)も述べてみました。
リプロニッコール170mm F1.4を使った実写画像も未掲載ですので、 まだまだ進化しそうです。

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